2009年05月19日

窓を開ければ・・・

200905082032000.jpg 高校時代に知り合った友達にいい人がいましてね。お互い大学生になって車の免許を取って、彼は流行のいいクルマを買ったわけです。
 彼の行動はとても分かり易いのです。たとえば、街中でイカす女の子(かなり時代掛かった言葉遣いでスミマセン)が目に止まると、いきなりカーステレオにかかっている矢沢永吉のレコードのボリュームを一杯にして窓を開けてからその女の子の横につけて、渋い顔してジッポーでタバコに火をつけてポーズを決めるのです。チラッとでも女の子がそぶりを見せれば速攻撃で声を掛けていました・・・。当時、女の子の注目を引くには車は不可欠だったようですが、最近はどうも事情が変わったようですね。車屋さんが大変な訳です。
 それはさておき、当時の私の方の生活はと言いますと、他ジャンルの邦楽も一通り聞かねばならないということで、いろいろ聞いたのですが、どれもこれも同じに聞こえて往生してました・・・。でも何故か宮薗節という浄瑠璃音楽が心地よく聞こえたので、それは繰り返し聞いてました。といってもマニアではありません。たまたま録音した宮薗千恵という人の「紙屋治兵衛」のサワリが気に入ってそればかりしつこく繰り返し聞いていたのです。艶っぽいなぁ・・・なんて思いながら。これじゃ当時の女の子には縁があるわけないですね。
 邦楽の古い音源に滅法詳しい友達がいまして、久しぶりに会って話す内に、僕は詳しくは無いけれど、学生時代、宮薗節は好きでしたと伝えたら、早速に古いけれどいい音源をコピーしてくれました。久しぶりに宮薗節を聞きましたが、懐かしさもあり、また当時は聞き取れなかった細やかなアヤなどが聞こえてきて、それはそれは感激的でした。なかなか家でゆっくり聞く時間はないので、移動のクルマの中などで繰り返し聞いています。
 宮薗節を聞いていると僕は、演者ととても親密な空間にいるような錯覚を感じます。これは僕個人の勝手な思い込みかも知れませんが、その点については地唄の端物と共通のものを感じます。ずいぶんとその両者の様式が違うのにも関わらずです。さりげない節使いもやけに生々しく感じるのは、観念上のその至近距離感にあるのではないでしょうか。わずかにかすれた吐息のような艶めかしい声を耳元で聞いているような気がしてきて、聞き入っているとついカーステレオのボリュームを上げてしまいます。体温も上昇して来たのでしょうか、やけにクルマの中が蒸し暑くなって来て、エアコンの温度を下げようとしましたが、待てよ今日は外気温はそんなに高くはなかったはずと、窓を開けることにしました。
 予想どおりヒンヤリとした風が気持ちよかったのですが・・・、信号で止まると周りの人が化け物を見るような顔でこちらを見ています。はたと気付きました。都心の真ん中を、大音量で宮薗節流しながら、小さなミニバンを運転している自分の姿を外から見た映像が、その瞬間僕の脳裏に映し出されたら思わず噴出してしまいました。これでは女の子どころか、一般人皆引いてしまうでしょうね・・・。
 でも正直に言うと、宮薗千某の浄瑠璃は矢沢永吉とてもかなわぬ濃厚な色気だと思いますよ。今の若い人はファッションでクルマ乗り回す人は少ないようですが、できれば流行のクルマで、浄瑠璃流してタバコでもくわえて、気取りながら街中流すような若い人は出てこないでしょうか???などと儚い妄想が浮かんで来たのでした。
posted by 善養寺惠介 at 01:49| Comment(4) | TrackBack(0) | 日記

2009年05月11日

2009春の演奏会 −重音会−

 5/2(土)、日本橋劇場で開催されました。生田流宮城会の金津千重子先生ご一門の演奏会です。


 金津先生が明治大学の邦楽サークルを指導なされているので、先日の二水会と同様、若いメンバーが楽屋界隈にあふれていて、なかなかいいものですね。尺八に限って言えば学生サークル出身者は昔に比べるとかなり上手です。確かに我々が学生時代にも、プロ顔負けの上手な人はいましたが、全体的なレベルはそんなに高くなかったように思いますが・・・。これからが楽しみです。


 「松竹梅」と「融」でご一緒させて頂きました。「松竹梅」は全員芸大の後輩、「融」は芸大の大先輩、との共演です。後輩から「善養寺先生」なんて呼ばれると何だか落ち着きません。どこかで同じ世代の先輩後輩という意識があるんですね、私の心の中に。でも実際は一回り以上も年が離れていました・・・。「融」でご一緒させていただいた大先輩に「さん」づけではとてもお呼びできません。ですからそれが当たり前なのかも知れませんが、「芦垣先生」や「金津先生」のような存在感が出てくるまで、やはり「善養寺先生」と呼ばれる度にそわそわするんでしょうね・・・。


 「松竹梅」はこのメンバーで演奏できることが本当に幸福だ!という気持ちが伝わって来て実に楽しかったです。「同期の桜」的な友情とでもいうのでしょうか。歌声に艶があり、糸の音には力強さがありました。音量とスピードにも圧倒されて、これは体を鍛えなおさなくてはいけないと思った次第です。(~_~;)


 「融」は大曲です。それを本当に実感いたしました。私が始めて合奏した九州系の「融」は前弾きと手事が一段分少ないのです。時間にすればさほどの差でもないのでしょうが、それだけの違いが私には本当に重く感じられました。特に出だしの前弾きがキツイです・・・。技量の誤魔化しようのない、隠しようもない余韻の長さに気絶しそうです。糸をはじいただけの余韻、かすかに揺らぎながら消えていく余韻に聴衆の誰もが耳を傾けているのですから、持続音の尺八は迂闊なことが出来ません。では小さな音なら良いかと言うとそれがちょっとでも気弱な音ならやはり邪魔なのです。芦垣先生の「あの籬が島の〜」という冒頭の歌声が聴こえた時は「やっと前歌に辿り着いた・・・」という気分でした。
 前弾きの重圧が時の流れをとても長く感じさせるのでしょうね。やっと辿り着いた前歌の「あのーまがーきー〜」という歌い出しが、「あのーーなんだっけ?」になりそうですよね、と仰った金津先生のコメントが何故か可笑しくて、可笑しくて・・・。今回忘れられない一言です。


お二方先生には内容の濃い舞台にいつもお声を掛けて頂き、本当に有難いことと感謝しています。

posted by 善養寺惠介 at 11:14| Comment(2) | TrackBack(0) | 日記

2009年05月06日

2009春の演奏会 −「二水会」−

 4/26(日)は、「二水会箏曲演奏会」。会場は横浜の「はまぎんホール」でした。会主は瀧澤憲一先生です。先輩の白木啓之さんのご縁で早二十年もお付き合い頂いています。会員の皆様もとても明るく親切で、また酒宴が大好きというところで一段と気が合いまして、いつも楽しくお付き合いさせていただいています。今回は先代瀧澤芳枝先生の三十三回忌追善演奏会でした。全21曲立派な演奏で天国の芳枝先生もさぞやお慶びだったことと思います。
 上智大学の邦楽サークル出身者が多く在籍する二水会は、何と言っても若い活気に満ち溢れていることが羨ましい限りです。舞台裏は手伝いに駆けつけた現役の学生諸君が慌しく駆け回り、40代、50代の幹部(多くは上智のOB)が引き締まった表情で指示を出しています。調弦には白木啓之さんや、井関一博さんら芸大出身のプロが助っ人に入りますが、ほとんどアマチュアパワーで見事に仕切られた素晴らしい会です。
 もう一つ特筆するべきは、幕間MCの解説です。原稿は演奏者自らが作成していて、それがどこかの百科事典を丸写ししたような安易なものではないのです。身近な師匠から直接耳にした苦労話などのエピソードが巧みに織り込まれ、演奏する本人の見解、見識、思い入れも正直に語られていて、それは中々の切れ味です。何より人から人へ伝えられた温かみと真実があります。そしてその整然とした言葉遣いはロジックに矛盾が無く、しかも平易に聞こえてくるのですから、知的水準の高さを感じないではいられませんでした。楽屋で解説に耳を傾けていらっしゃいました、地唄箏曲研究家の中井猛先生も大変感心されていました。
 毎年四月下旬の休日に定期演奏会が開催されます。来年も是非お運び下さい。
 ホームページはhttp://www.k2.dion.ne.jp/~nisuikai/
posted by 善養寺惠介 at 11:50| Comment(0) | TrackBack(0) | 演奏会

2009年05月05日

春の演奏会-「船川利夫追悼リサイタル」-

  ブログはしばらくのご無沙汰となりました・・・。春の演奏会シーズン、今年は早くもひと段落なので、思い出をご報告いたします。

 4/11(土)、トッパンホールで「船川利夫 追悼リサイタル」がありました。残念ながら入場者が100人一寸しか入らず集客は大失敗でしたが、内容はとても面白い演奏会だったと思います。私自身は不慣れなジャンルで不本意でしたが、他は実力派プレーヤーの競演でした。ソロをとった三橋貴風、郡川直樹、河野正明、菅原久仁義、藤原道山の各師は大変な熱演で、尺八のみならず箏曲、三味線陣営もかなり高いテンションだったと思います。どの曲も水準が高かったと思いますが、個人的には親しい井関一博(箏・歌)さんの独奏が印象的でした。

 しかし忘れようにも忘れられないプレーヤーは素川欣也さんです。この人は名人です!「覚」という尺八の合奏曲で同じ低音部をご一緒させて頂き痛感いたしました。職人風というか、業師ですね。それでいてちっとも偉ぶらないし、気取らないし、素晴らしい。楽屋では「与作」のアドリブを楽しんで演奏するという余裕で、しかもこれが抜群にウマイ、尋常の演奏力ではないと思いました!

 もう一つのエピソード。菅原さんが「出雲路」を演奏している最中に、楽屋でピシっと鋭い音が鳴り、全員が蒼ざめました。「今の音は・・・」と口にした瞬間、部屋にいた誰もが、竹の割れた音と確信したのでした。何とこれからソロを演奏する三橋さんの楽器でした。緊急事態発生。さすが百戦錬磨の三橋さん、補修用具のテグスとペンチの備えがありました。しかし、プロの技でそれを締めたのは素川さんでした。本番まで一時間、修復される保障はありません。万が一に備えて家の一番近い藤原道山さんが代わりの楽器をダッシュで自宅に取りに走るかなどと、大騒ぎしながらも三橋さんご自身の楽器が、素川さんの技によってナントそのまま治ってしまったのです。皆固唾を飲んでその作業を見守りました。(菅原さんゴメンナサイ、楽屋では「出雲路」を誰も聞きませんでしたm(__)m・・・)

 尺八製作の作業台もない楽屋です。そこであの田辺頌山さんがアシスタントとなって楽器を支えていたのですよ。現代尺八奏者の名人達人がヨッてタカッて三橋さんの楽器を見事に修復した様子は映像に残しておきたかったです。なんとも感銘深い光景でした。

posted by 善養寺惠介 at 21:01| Comment(2) | TrackBack(0) | 演奏会